リハビリの現場から感じる課題
足関節の可動域制限は、歩行だけでなく立位バランスやADL全般に影響します。
特に高齢者や長期臥床患者では拘縮が進行しやすく、治療計画の立案が難しいことも多いのではないでしょうか。
運動器疾患における足関節のROM制限だけでなく、脳卒中者にも足関節の可動域制限は大きな問題となります。
痙縮や筋緊張の亢進により背屈制限が強くなると、歩行周期における初期接地や立脚期の安定性が低下し、転倒リスクにも直結します。
リハビリテーションの場面では、こうした神経学的要因を踏まえたうえでの評価と運動療法が求められます。
書籍の基本情報
書籍名:足関節拘縮の評価と運動療法
著者:村野 勇
監修:林 典雄
出版社:運動と医学の出版社
発行日:2022年9月16日
判型:B5変型判
ページ数:284ページ
ISBN:978-4-904862-53-7
書籍の概要と特徴
この書籍は、足関節の拘縮に対して
「なぜ起こるのか」
「どのように評価するのか」
「どのように改善を促すか」
を体系的に整理した一冊です。
臨床で即活用できる評価法や運動療法プログラムが多数紹介されており、徒手療法・装具療法・自主訓練の視点をバランスよくカバーしています。
単に可動域を拡げるためのストレッチではなく、「構造的拘縮」と「神経学的拘縮」を区別しながら、根拠をもって治療を組み立てるための実践的な指針が示されています。
目次と各章の内容
- 第1章 足関節拘縮の病態生理と原因
足関節拘縮の成立メカニズムを、筋・腱・関節包・皮膚・神経といった多層的な構造から解説。単にROMが減るという現象ではなく、「どの組織が制限因子となっているのか」を整理することで、治療方針の立て方が明確になります。 - 第2章 関節可動域と軟部組織の構造理解
アキレス腱やヒラメ筋、長母趾屈筋など、足関節周囲の主要組織の構造とその動態を詳細に解説。
軟部組織の走行や伸張方向を理解することで、ストレッチやモビライゼーションの目的を明確にできます。臨床の「なぜこの方向で動かすのか」を根拠づける内容です。 - 第3章 評価の進め方(ROM測定・筋緊張・歩行観察)
ROM測定だけでなく、関節端の感触(end-feel)や筋緊張、神経因性拘縮の見分け方など、より深い評価法を紹介。
立位での動作観察や歩行分析を通じ、拘縮が歩行周期のどこに影響しているのかを読み取る視点が得られます。 - 第4章 拘縮に対する徒手療法とストレッチング
関節モビライゼーションや筋膜リリースなど、臨床で実践される手技の具体例が多数掲載されています。
特に「荷重位でのストレッチング」や「関節包内運動の誘導法」は、再現性が高く、即実践に活かせる内容です。 - 第5章 運動療法と荷重練習の展開
受動的介入に加え、患者自身の能動的運動を促す手法を解説。重心移動を活用した荷重練習、立ち上がり動作での足関節背屈誘導など、ADL動作の中で可動域を拡げる考え方が紹介されています。 - 第6章 日常生活動作への応用
歩行・階段昇降・立位保持など、日常生活に直結する動作への展開方法を解説。
拘縮改善が動作の安定性や疼痛軽減にどうつながるか、臨床例を交えて学べます。 - 第7章 症例から学ぶ臨床実践
整形外科疾患や脳卒中後の拘縮例など、複数の症例を通して評価と介入のプロセスを具体的に提示。
どのように仮説を立て、どのように再評価を行うか、臨床推論の流れを体感的に学べます。
読んで得られること
- 拘縮の原因を構造的・神経学的に理解できる
- 評価から治療方針までを一貫して考える力が身につく
- 関節モビライゼーションや神経筋再教育の具体的方法がわかる
- 自主トレーニング指導のポイントを構造的に説明できるようになる
どんな人におすすめか
- 足関節の評価や治療に苦手意識がある若手療法士
- 歩行分析やADL改善に直結するアプローチを学びたい方
- 拘縮改善の根拠を整理し直したい中堅・教育者層
- 脳卒中患者の痙縮対応とROM改善のバランスを学びたい方
実際に読んだ感想・臨床での活かし方
足関節のROM制限に関しては、多くの筋や靭帯、脂肪組織などが関与しています。
しかし臨床でよく見かけるのは、「とりあえずアキレス腱のストレッチを指導している」場面です。
アキレス腱自体は、それほど伸張性をもった組織ではありません。
本書を読む中で、
「長母趾屈筋?ヒラメ筋?長趾屈筋?アキレス腱下脂肪体?」
といったように、仮説を持って評価することの重要性を改めて感じました。
仮説的思考をもとに組織ごとの影響を探ることで、より効果的なアプローチが可能になります。
また、足関節は自主的な徒手介入が比較的しやすい部位です。
どの部位をマッサージすれば良いのか、どのようなストレッチをすればよいのかを個別化して指導することで、自主練習に高い効果を期待できます。
臨床でこの具体性を患者指導に反映できる点が、非常に実践的だと感じました。
脳卒中者においては、腓腹筋やヒラメ筋、後脛骨筋などの筋緊張亢進がROM制限に関与することが多いですが、生活期になるとそれだけではなく、他の軟部組織や脂肪組織の拘縮が重なり、制限がより強くなるケースも多く見られます。
この書籍を通して評価の視点を整理し、具体的にアプローチを変化させることで、ROMの維持・改善をより確実に進めることができると実感しました。
まとめ
足関節拘縮の評価と運動療法は、患者の歩行能力・立位バランスを左右する重要なテーマです。
この書籍は、理学療法士・作業療法士の基礎力を底上げする実践的なガイドとして非常におすすめです。

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