この本を手に取った理由
臨床で患者の痛みや動作不良を評価していると、「どこを鍛えるか」ではなく「なぜそこに負担がかかるのか」を考える重要性を痛感します。
筋力強化だけでは改善しない症状。
アプローチしてもすぐ再発する機能障害。
その背景には、多くの場合「マッスルインバランス」による運動制御の乱れが潜んでいます。
しかし、マッスルインバランスを体系的に理解し、臨床で使える形で整理された資料は意外に少ないと感じていました。
そんな時に出会ったのが、『マッスルインバランス改善の為の機能的運動療法ガイドブック』です。
動作分析から治療戦略づくりまでを一冊にまとめた本書は、「現場で今日から使える機能的運動療法」を求めるセラピストにとって欠かせない内容でした。
書籍の基本情報
書籍名:マッスルインバランス改善の為の機能的運動療法ガイドブック
著者:荒木 茂(アラキ シゲル)
出版社:運動と医学の出版社
発行年月:2020年12月25日
定価:4,950円(税込)
ISBN:978-4-904862-46-9
シリーズ名:特に明記なし(臨床家シリーズの続編的位置づけ)
電子版:あり
書籍の概要と特徴
本書は、マッスルインバランスの概念を中心に、身体の非対称性・代償動作・関節アライメントの乱れが、どのように運動連鎖へ影響し、痛みや機能障害を生み出すのかを徹底的に解説しています。
特徴としては、以下の3点が特に印象的です。
- 評価から治療計画までの“思考のプロセス”を明確に提示
- 静的アライメント・動的アライメントの両側面からアプローチ
- 写真・図解・臨床例を用いたわかりやすい構成
また、「機能的運動療法」を軸に、患者の動作を適切に引き出すための運動選択や負荷設定、キューイング方法にまで踏み込んでおり、机上論で終わらない臨床的リアリティが詰まっています。
目次と各章の内容
本書は、マッスルインバランスを理解するための基礎から、具体的な評価と治療手順、実際の運動療法の展開まで段階的に学べる構成です。
各章の内容を要点とともに紹介します。
マッスルインバランスとは何か
マッスルインバランスは「筋の過剰活動と低下した活動のアンバランス」を指し、身体の機能障害の根本原因のひとつであると説明されます。
力の強弱だけでなく、タイミング・協調性・スタビリティとモビリティの関係性まで踏み込んでおり、従来の筋力評価では捉えきれない視点を得られます。
姿勢とアライメントの評価
静的姿勢だけでなく、動作中のアライメント変化を観察する重要性が強調されています。
特に「骨盤位置」「胸郭の可動性」「下肢アラインメントの崩れ」がどのように運動連鎖へ影響するかを具体例とともに解説。
評価シートや観察ポイントが実務に直結します。
機能的動作の分析
スクワット、ランジ、ヒンジ、プッシュ、プルといった基本的な動作パターンを機能的に分析し、どの部位が過剰に働き、どの部位が機能不足なのかを抽出する手順を紹介しています。
特に、動作中の代償パターンと各部位の関係を整理した図表は、セラピストの思考を助けてくれます。
治療戦略の立て方
マッスルインバランスを改善するための戦略として「抑制」「促通」「安定化」「協調性向上」という順序でアプローチする考え方が述べられています。
患者のタイプ別にどの介入が優先されるか、具体的な症例を交えて説明しており、明日からの治療計画づくりにそのまま応用できます。
機能的運動療法の実践
ブリッジ、デッドバグ、サイドプランク、ヒップヒンジなど、原則となる運動パターンを土台として、段階的に負荷を高める方法が示されています。
運動時のキューイングも豊富で、患者の動きを適切な方向に導くための具体的な言葉かけが参考になります。
読んで得られること
本書を読んで得られる最大のメリットは、「評価 → 原因分析 → 治療戦略 → 運動療法」という臨床の流れが一本の線としてつながる点です。
- なぜその代償が出るのか
- どの筋が過剰で、どの筋が不足しているのか
- どの運動をどの順序で処方すべきか
これらが整理されることで、治療の精度が一段階上がります。
結果として、痛みや動作の改善がより再現性のあるものとなり、患者の満足度にも大きく貢献します。
どんな人におすすめか
以下のようなセラピストに特におすすめです。
- 動作分析の基準を明確にしたい
- 筋力強化に頼らない治療介入を身につけたい
- マッスルインバランスを評価に組み込みたい
- 運動療法の引き出しを増やしたい
- 再発予防まで考えた介入をしたい
新人から中堅まで幅広く役立ちますが、既に臨床で評価・治療の組み立てに迷いがあるセラピストほど、より深い気づきを得られる内容です。
実際に読んだ感想・臨床での活かし方
本書の良さは「抽象的な概念」を「具体的な臨床思考」に落とし込んでいる点にあります。
とくに動作分析の章では、目の付け所や観察すべきポイントが整理されているため、複雑な動作もシンプルに評価しやすくなりました。
臨床では、スクワットが苦手な患者や下肢アライメントの崩れがあるケースにおいて、どこが過剰でどこが機能不足なのかを瞬時に判断できるようになり、介入のスピードと精度が向上しました。
また、キューイング例が豊富なので、運動中の“気づき”を患者に引き出しやすく、動作の学習効果も高まっています。
まとめ
『マッスルインバランス改善の為の機能的運動療法ガイドブック』は、
「なぜその動きになるのか」
「どう介入すれば動きが変わるのか」
を整理したいセラピストにとって最適の一冊です。
機能的運動療法の考え方を体系的に学ぶことで、臨床の判断がよりクリアになり、治療介入の再現性が高まります。
マッスルインバランスを正しく理解し、患者の動作を本質的に変えたい方に強くおすすめできる内容です。

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