「技」よりも「解釈」を。機能解剖が臨床を変える一冊 ― 『運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈 上肢編』

治療法を選ぶ前に、「何を治すか」を見極める力

理学療法士や作業療法士が運動器疾患に対して治療を考えるとき、多くの場合「どんな治療法を使うか?」という手段の選択に意識が向きます。

しかし、林典雄氏の『運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈 上肢編』は、その前に問うべき本質を突きつけます。

「どのように治すか」ではなく、「何をどこを治すのか」。

観血的治療(手術)であっても、保存的治療であっても、治療の出発点は病態を正しく知ること

林氏は、「敵を知ること」がすべての治療判断の基礎であると説きます。


「なぜそうするのか」を解剖で説明できるか?

臨床で行う整形外科的テストの多くは、形だけ覚えても意味をなさないことがあります。

大切なのは、検査動作の背後にある機能解剖的根拠を理解しているかどうかです。

たとえば次のような質問に、あなたは明確に説明できますか?

  • 棘上筋テストはなぜ親指を下にするのか?
  • 肩甲下筋を評価するbelly press testlift off testの違いは?
  • 結滞動作で肩ではなく前腕が痛む理由は?
  • フローマン兆候が陽性になる機能解剖学的背景は?

こうした「臨床でよくある疑問」に対して、機能解剖を根拠に説明できる臨床家こそ、治療判断の精度が高いと林氏は述べます。


本書の構成

『上肢編』は、上肢の主要関節を中心に、機能解剖と評価・解釈のプロセスを体系的にまとめています。

章立ては以下のような流れで構成されています。

  1. 序章:評価の目的と考え方
    評価とは何か、なぜ「解釈」が必要なのかを理論的に解説。
  2. 第1章:肩関節の機能解剖と臨床評価
    肩甲上腕リズム、回旋筋腱板、肩甲骨運動の分析。
  3. 第2章:肘関節の機能解剖と病態の理解
    外側上顆炎や肘内側障害など、力学的背景と評価法を紹介。
  4. 第3章:手関節・手指の機能解剖と動作分析
    屈筋・伸筋群の協調、手指巧緻動作における関節機能の連動。
  5. 第4章:整形外科的テストの機能解剖学的解釈
    各テストの「なぜこの肢位なのか」を徹底解説。
  6. 第5章:臨床ケースと評価の展開例
    評価→解釈→治療選択へとつながる思考過程を提示。

単なる解剖学の暗記ではなく、「動作」「評価」「治療」を一貫した思考でつなぐ構成が特徴です。


この本を読むべきタイミング

本書は、以下のような場面で特に力を発揮します。

  • 評価はできるが、結果の「意味付け」がうまくいかないと感じる時
  • 治療技術を学んでも臨床効果に差が出ないとき
  • 整形外科的テストの意義を深く理解したいとき
  • 上肢疾患の病態を動作レベルで理解したいとき
  • 教育・指導者として、根拠をもって説明したいとき

つまり、「知識はあるが、臨床でつながらない」と感じているセラピストにとって、評価思考を再構築するための指南書になります。


理学療法士・作業療法士が読むべき理由

本書を読むことで、理学療法士・作業療法士に共通して得られる最大の価値は、評価の再現性と治療の一貫性が高まることです。

1. 「構造を理解して動きを診る」視点が身につく

解剖学を単なる知識ではなく、病態を説明するためのツールとして使えるようになります。

動作中の筋の働きや関節の相互作用を理解することで、「なぜ痛いのか」を根拠をもって説明できます。

2. 技術選択の根拠が明確になる

林氏が述べるように、病態が決まれば、適応する“技”は自ずと決まる

徒手療法・運動療法・物理療法のどれを選ぶかという迷いが減り、臨床判断に自信が生まれます。

3. 教育・後輩指導にも活かせる

評価の理由やテストの目的を「解剖学的に説明できる」ことで、後進への教育もより体系的になります。

学生や新人にとっては、評価学・運動学を結びつける最高の教材にもなります。


評価と解釈が「技」を導く

林氏は、「技を出す前に敵を知ること」を強調します。

この本は、単なる評価法の解説ではなく、

「なぜその評価をするのか」

「結果をどう解釈するのか」

を深く掘り下げた一冊です。

技術に頼る臨床から、思考で導く臨床へ。

本書は、セラピストとしてのレベルアップを目指すあなたにとって、臨床の“軸”を整えるきっかけになるでしょう。

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