膝関節拘縮を正しく理解し、確実に改善へ導く一冊──『膝関節拘縮の評価と運動療法 改訂版』を読んで感じた臨床の核心

リハビリの現場から感じる課題

「膝が硬い」と患者さんが訴えると、つい「ではROM-ex(関節可動域訓練)やストレッチをしましょう」と反射的に進めていませんか?

私自身も新人の頃、膝関節拘縮と聞くと

「伸びないなら伸ばす」

「曲がらないなら曲げる」

と、単調なROM練習に終始していました。

ですが、なかなか改善しない現実に何度も直面しました。

膝関節拘縮は単なる「動かない関節」ではありません。

拘縮の背景には、関節包、靭帯、筋、皮膚、さらには疼痛や神経の影響まで複雑に絡み合っています。

そのメカニズムを理解せずにリハビリを進めても、患者さんにとって効果的な介入にはなりにくいのです。

そんな時に出会ったのが、『膝関節拘縮の評価と運動療法 改訂版』。

この一冊が、私の「膝をどう見るか」という視点を大きく変えてくれました。

書籍の基本情報

監修:林典雄

著者:橋本貴幸

出版社:運動と医学の出版社

改訂版では、最新の研究知見や術後リハビリの臨床例、MRIやエコー画像を用いた拘縮構造の図解が追加され、より臨床的・実践的な内容になっています。

ページ数は約300ページ。

図表や写真が多く、文字ばかりの専門書とは違い、現場でもすぐに参照できる構成になっています。

価格は内容に対して非常にコストパフォーマンスが高く、現場のバイブルとして長く使える一冊です。

書籍の概要と特徴

本書は、膝関節拘縮を「構造的」「機能的」「運動学的」観点から整理しています。

単に“ストレッチ方法”を紹介するのではなく、

なぜ拘縮が生じるのか

どの組織がどのように関与しているのか

を理論的に解説している点が大きな特徴です。

また、解剖学・組織学・運動学をつなぐ形で膝関節の動きを再構築しており、関節包後部・滑膜ひだ・内外側支持機構などの微細構造にまで踏み込んだ説明が行われています。

これにより、徒手的な触診やストレッチ方向をより精度高く設定できるようになります。

加えて、拘縮後の動作パターン変化や代償動作の評価にも触れられており、単なるROM改善にとどまらず、「機能的な動作回復」を見据えたリハビリ設計の重要性を説いています。

目次と各章の内容

  • 第1章:膝関節拘縮の定義と分類
    拘縮を「構造的拘縮」「機能的拘縮」に分類し、臨床での判断基準を明確化。
  • 第2章:膝関節の解剖と運動学的特徴
    関節包、靭帯、滑膜、筋の関与を整理し、各構造の役割を機能的に理解できる構成。
  • 第3章:拘縮の評価法
    徒手的評価、関節モビリティテスト、動作分析、画像診断を組み合わせた多角的評価法を提示。
  • 第4章:保存療法・運動療法のアプローチ
    伸張刺激・持続牽引・筋膜リリースなどの実践的手技の原理と注意点を丁寧に解説。
  • 第5章:術後・外傷後のリハビリ戦略
    TKA後や骨折後など、臨床で多いケースの拘縮予防・改善プログラムを紹介。

これらの章構成により、理論から実践、そして再発予防までを一貫して学ぶことができます。

読んで得られること

本書を通じて、膝関節拘縮を「単なる関節可動域制限」ではなく、「構造・機能・心理の複合的病態」として捉える視点が身につきます。

その結果、評価の段階で原因組織をより具体的に予測できるようになり、治療方針の立案が明確になります。

また、改訂版では「拘縮の進行メカニズム」に関する最新研究も取り上げられており、炎症や線維化のプロセスを科学的に理解することで、急性期からの予防的介入にも活かせる内容になっています。

どんな人におすすめか

  • 膝OAやTKA後の拘縮改善に苦戦している新人~中堅の理学療法士・作業療法士
  • 筋・関節・皮膚などの各組織に対する触診力を高めたい臨床家
  • 拘縮治療を体系的に学び直したい教育者や指導者層

とくに、日々の臨床で「ROM練習をしても伸びない」と悩んでいる方にとっては、原因を再構築できる貴重な一冊になるでしょう。

実際に読んだ感想・臨床での活かし方

私自身、新人時代にTKA術後や大腿骨遠位部骨折術後の患者さんのROM獲得に非常に苦労した経験があります。

「どれだけROM-exをやっても変化がない」

「患者さんが痛がってしまう」

──そんな日々が続き、正直、患者さんに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

しかし、この『膝関節拘縮の評価と運動療法 改訂版』を読んでから、考え方が大きく変わりました。

手術方法や外傷の影響をしっかり把握し、それを解剖学的に照らし合わせることで、制限の原因組織を予測できるようになったのです。

たとえば、TKA後の伸展制限であれば、後方関節包の緊張だけでなく、関節後方の筋群の癒着などが関与している可能性を考え、そこに合わせたモビライゼーションや荷重位での促通を選択できるようになりました。

結果として、ROM獲得のスピードが明らかに向上し、患者さんも

動かしやすくなった

と笑顔を見せてくれることが増えました。

この経験を通して、本書が単なる理論書ではなく、臨床現場で結果につながる実践書であることを実感しています。

まとめ

膝関節拘縮の評価と運動療法 改訂版』は、膝関節の拘縮を深く理解し、「なぜ動かないのか」を構造レベルで考えられるようになる一冊です。

従来の「ROM-exやストレッチ主体のリハビリ」から脱却し、患者ごとの原因組織に即したアプローチを組み立てるための強力な指針となるでしょう。

臨床での成果を変えたい理学療法士・作業療法士に、ぜひ手に取っていただきたい本です。

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