リハビリの現場から感じる課題
私の父は60歳を過ぎた頃から、なんとなく姿勢が丸まり、左右にフラフラと揺れるような歩き方になりました。
脚の痛みや腰の痛みを日頃から口にするようになり、「健康寿命」という言葉が頭をよぎったことを覚えています。
理学療法士として働く中でも、同じような変化を感じる方は少なくありません。
筋力や柔軟性の低下だけでなく、「動くことへの自信の喪失」や「転倒への恐怖心」が重なり、活動量がさらに減っていくという悪循環に陥る方が多いのです。
そうした現実の中で、
「何歳からでも、自分のからだを整え直すことはできる」
という希望を与えてくれるのが、園部俊晴先生の著書『60代から差がつく 健康長寿のための からだのトリセツ』です。
書籍の基本情報
- 書名:『60代から差がつく 健康長寿のための からだのトリセツ ~家族に迷惑をかけずに生き抜くエクササイズ習慣~』
- 著者:園部俊晴
- 出版社:運動と医学の出版社
- 発行日:2025年5月26日
- 定価:1,540円(税込)
- ISBN:978-4-904862-75-9
- 判型・ページ数:AB判/130ページ
- 電子版:あり(ダウンロード型/アクセス型配信サービスあり)
- シリーズ名:「健寿ライフBOOKS」第1巻
書籍の概要と特徴
本書は、リハビリや運動療法の現場で多くの経験を積んできた園部俊晴先生が、「60代からのからだの整え方」をわかりやすくまとめた実践書です。
最大の特徴は、「運動=鍛える」ではなく、「運動=からだの扱い方を学び直すこと」として捉えている点です。
年齢を重ねたからこそ必要な「正しい動きの感覚」を、写真とイラストを使って丁寧に解説しています。
また、「無理なく、毎日少しずつ続けられる工夫」が随所にちりばめられており、忙しい人や運動が苦手な人でも安心して取り組める内容になっています。
目次と各章の内容
本書は、加齢にともなう体の変化を理解し、健康寿命を延ばすための「知識」と「実践」を体系的にまとめた構成になっています。
どの章も、医学的な根拠に基づきながら、難しい専門用語をできる限り避け、読みやすく工夫されています。
第1章 60代からのからだの変化を知る
この章では、筋力や柔軟性の低下、姿勢変化、バランス感覚の衰えなど、60代からの体の変化を科学的に解説しています。
単に“老化”と片付けるのではなく、
「なぜ筋肉が衰えるのか」
「なぜ関節が固くなるのか」
といったメカニズムをわかりやすく説明。
体の衰えを“自分ごと”として理解することが、改善への第一歩だと強調しています。
第2章 姿勢が崩れるメカニズム
姿勢の崩れは、筋力低下よりも「使い方の偏り」によって生じると著者は述べています。
この章では、猫背・反り腰・左右差など、日常生活の中で生まれる姿勢のクセを写真付きで紹介し、それぞれに対する意識修正のポイントを提案しています。
特に「立つ」「座る」「歩く」といった基本動作の見直しが中心で、読者は自分の体の歪みに気づくことができます。
第3章 痛み・しびれの正体
多くの人が悩む腰痛や膝の痛み、手足のしびれなどの原因を、筋膜・関節・神経の観点から解説しています。
「痛みは結果であり、原因は動き方にある」という視点は、医療職にも響く内容です。
痛みを取り除くよりも、「痛みを起こさない動作」に変えていくというリハビリの基本が丁寧に語られています。
第4章 バランス能力を取り戻す方法
転倒リスクが高まる60代以降にとって、「バランス」はまさに命を守る能力です。
この章では、体幹・下肢・感覚の3つの視点からバランス機能を評価し、シンプルで安全なトレーニング方法を紹介しています。
床に立ってできる運動から、壁や椅子を使ったサポート動作まで、段階的に進められるのが特徴です。
第5章 転倒予防と歩行の安定化
この章では、転倒を「偶然の事故」ではなく「身体操作の結果」として分析しています。
歩行時の重心移動やステップの出し方、つまづきやすい姿勢の特徴などを図解で解説。
理学療法士であれば、臨床で患者さんの歩容を観察する際のチェックポイントにもなります。
一般読者にとっても、明日から実践できる“転ばない歩き方”を学べます。
第6章 家でできる簡単エクササイズ集
ここでは、特別な器具を使わずに自宅で行える運動が多数紹介されています。
内容はスクワットやストレッチのような一般的な運動だけでなく、姿勢を整えるための「体の再教育」を目的としたエクササイズです。
各運動には「回数」「姿勢の注意点」「呼吸法」が明記されており、写真を見ながら安心して実践できます。
第7章 習慣化するためのコツとメンタルの整え方
最終章では、「継続こそ最大のリハビリ」であることが語られます。
人は「できない」と感じるとやめてしまうものですが、本書では“続ける仕組み”の作り方に焦点を当てています。
習慣形成の心理学的アプローチや、モチベーションを保つための小さな工夫、家族との関わり方まで、行動科学の視点から丁寧に紹介されています。
読んで得られること
本書を読むことで、単なる健康維持のための運動ではなく、「自分のからだを理解し、対話する力」が身につきます。
特に、理学療法士・作業療法士として臨床に携わる方にとっては、
「患者さんがなぜ動けなくなるのか」
「どの動きを意識させると効果的か」
を再考するきっかけにもなるでしょう。
また、一般の読者にとっても、
「どこが弱っているのか」
「どうすれば今より動きやすくなるのか」
を客観的に把握できる内容になっています。
どんな人におすすめか
- 60歳を過ぎて、最近動くのがつらくなってきた方
- 姿勢の崩れや歩行の不安定さが気になる方
- 家族の介護をなるべく避けたいと思っている方
- 日々の運動を継続できずに悩んでいる方
- リハビリや運動指導に関わる医療職・トレーナー
園部先生の語り口はとても穏やかで、読者を励ましながらも科学的な根拠をもとにアドバイスしてくれます。
難しい専門書というより、「60代の未来を支える生活の教科書」と呼ぶにふさわしい一冊です。
実際に読んだ感想・臨床での活かし方
私自身、本書を読みながら、父の姿勢や歩行を改めて観察してみました。
「からだの使い方」に焦点を当てたエクササイズを一緒に行ってみると、わずか数日で
「歩くのが少し楽になった」
と言うようになりました。
臨床現場でも、60代以降の患者さんに対して、「自分のからだをどう扱うか」を教える重要性を改めて実感しています。
単に筋力をつけるだけでなく、「正しい感覚を呼び戻す」ことが健康長寿への第一歩だと感じます。
まとめ
『60代から差がつく 健康長寿のための からだのトリセツ』は、年齢を重ねても“自分の足で歩き続けたい”と願うすべての人に寄り添う一冊です。
医学的な裏づけに基づいたエクササイズで、無理なく体を整え、家族に迷惑をかけない生き方を目指すための頼もしいパートナーになるでしょう。

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