リハビリの現場から感じる課題
脳卒中患者のリハビリを行っていると、「これは神経症状だから仕方ない」と説明される現象に多く出会います。代表的なのが連合反応やプッシャー現象です。
もちろん、これらの現象には神経学的背景があります。しかし臨床で患者さんを観察していると、ふと疑問が湧く瞬間があります。
なぜこの姿勢だと連合反応が強く出るのか。
なぜこの立ち位置だとプッシャーが強くなるのか。
なぜ身体の配置を少し変えただけで急に動きが変わるのか。
こうした疑問に対して、「それは神経だから」で思考を止めてしまうと、治療戦略が広がらないことがあります。
『脳卒中運動学』は、こうした臨床の疑問に対してとてもシンプルな問いを投げかけます。
「その現象、本当に神経だけで説明していますか?」
本書は、脳卒中で見られるさまざまな現象を運動学という視点から再解釈することで、臨床の評価と介入をより具体的に考えるためのヒントを与えてくれる一冊です。
書籍の基本情報
書籍名
脳卒中運動学
監修
鈴木俊明
編集
嘉戸直樹 / 大沼俊博 / 園部俊晴
出版社
運動と医学の出版社
発行年
2021年10月
ページ数
258ページ
定価
6,050円(税込)
ISBN
978-4904862483
電子版
電子書籍ストアで一部取り扱いあり
シリーズ
鈴木俊明シリーズ
書籍の概要と特徴
『脳卒中運動学』の最大の特徴は、脳卒中患者に見られるさまざまな現象を「神経生理学」だけでなく運動学的視点から整理している点です。
脳卒中リハビリでは、
- 病的共同運動
- 連合反応
- 肩関節亜脱臼
- ぶん回し歩行
- プッシャー現象
などの現象をよく目にします。
これらは多くの場合、「脳の損傷による運動制御の異常」と説明されます。しかしその理解だけでは、臨床での評価や治療戦略に結びつかないことも少なくありません。
本書では、こうした現象を
身体の構造
関節の連動
重心と支持基底面
力学的なバランス
といった運動学の視点から分析していきます。
その結果、脳卒中患者の動きが「特別な現象」ではなく、「身体がとろうとする運動戦略」として理解できるようになります。
目次と各章の内容
第1部 運動と現象の運動学的解釈
1章 なぜ今、脳卒中の運動学なのか?
脳卒中リハビリにおいて、なぜ運動学という視点が必要なのかを整理した導入章。
神経学的理解だけでは説明しきれない臨床の現象をどのように捉えるかが提示されている。
2章 病的共同運動パターンを運動学で考える
屈曲・伸展シナジーを単なる神経症状としてではなく、身体の運動連鎖や姿勢制御との関係から解釈する章。
姿勢や支持条件によってシナジーが変化する理由が整理されている。
3章 連合反応を運動学で考える
努力時に出現する連合反応を、身体の安定化戦略として再解釈。
体幹安定性や支持基底面との関係から、臨床でなぜ特定の状況で出現しやすいのかが説明されている。
4章 肩関節亜脱臼を運動学で考える
肩甲帯と上腕骨、体幹の位置関係から亜脱臼の発生メカニズムを整理。
ポジショニングや支持の重要性が具体的に示されている。
5章 肩手症候群を運動学で考える
上肢の運動制御や循環との関係を含め、肩手症候群を多角的に捉える章。
早期介入の重要性が示されている。
6章 トレンデレンブルグ現象を運動学で考える
歩行時の骨盤制御と股関節外転筋機能の関係を整理し、歩行分析に役立つ視点を提示している。
7章 ぶん回し歩行を運動学で考える
下肢クリアランス不足に対する代償戦略としてのぶん回し歩行を分析。
股関節・骨盤・体幹の運動連鎖から理解する内容となっている。
8章 プッシャー現象を運動学で考える
重心位置と身体軸の関係からプッシャー現象を解釈し、臨床での評価や介入のヒントを提示している。
第2部 運動と現象の運動学的解釈
1章 脳卒中運動学を用いた評価・治療戦略
運動学的視点を実際の評価と治療にどうつなげるかを解説。臨床思考の流れが整理されている。
2章 症例から学ぶ脳卒中運動学
実際の症例を通して、運動学的視点がどのように臨床判断に活かされるのかを示している。
読んで得られること
この本を読むことで、脳卒中患者の運動を見る視点が大きく変わります。
まず、「神経症状だから仕方ない」という思考から一歩抜け出すことができます。
そして、
- なぜその動きが出ているのか
- 身体は何をしようとしているのか
- どこを変えれば運動が変わるのか
といった臨床的な問いを立てられるようになります。
結果として、評価から治療へとつながる思考が整理されるようになります。
どんな人におすすめか
この本は、特に次のようなセラピストにおすすめです。
- 脳卒中患者の運動分析を深めたいPT・OT
- 神経生理学だけでは臨床に落とし込めないと感じている人
- 新人〜中堅セラピスト
- 歩行分析や運動分析に興味がある人
運動学を臨床にどう活かすかを学びたい人にとって、非常に示唆の多い内容になっています。
実際に読んだ感想・臨床での活かし方
この本を読んで感じるのは、脳卒中患者の動きを「特別なもの」として扱いすぎないことの大切さです。
例えば連合反応も、
神経が壊れているから起こる現象
という説明だけでは終わりません。
体幹が不安定
支持基底面が狭い
重心がコントロールできない
こうした状況では、身体は全体を固めて安定させようとします。
その結果として、上肢屈曲や異常な筋活動が出現することもあります。
つまり、
異常運動
ではなく
身体が安定しようとした結果
として見ることもできるのです。
この視点を持つと、臨床での介入が変わってきます。
体幹支持を調整する
足底接地を安定させる
重心移動を誘導する
こうした運動学的な環境調整だけで動きが変わる場面を経験することも少なくありません。
まとめ
『脳卒中運動学』は、脳卒中患者の動きを
神経学
解剖学
運動学
という複数の視点から理解することの重要性を教えてくれる一冊です。
連合反応やプッシャー現象といった現象を「神経のせい」で終わらせるのではなく、
身体は何をしようとしているのか
どの力学が働いているのか
という視点で考えることで、臨床の見え方は大きく変わります。
脳卒中患者の運動をより深く理解したいセラピストにとって、臨床思考を一段階引き上げてくれる一冊と言えるでしょう。

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