リハビリの現場から感じる課題
急性期分野のリハビリテーションにおいて、外科手術後に早期離床を進めるためのリハビリが当たり前になってきました。
ですが、消化器疾患のリスク管理って、リハビリテーション職はあまり深く勉強してきませんでしたよね。
また、合併症を持つことが当たり前になったこの時代。私自身、消化器疾患の合併症について、わからない時が多かったです。
そんなときに出会ったのが『病気がみえる vol.1 消化器』でした。
本書は、消化器の構造から疾患、検査、治療までをビジュアルに理解できる一冊で、リハビリ職にとっても“動く前に知っておくべきリスク”を整理できる心強い味方です。
書籍の基本情報
書名:病気がみえる vol.1 消化器
著者:医療情報科学研究所(編)
出版社:メディックメディア
発行年:第7版(2025年3月5日発行)
判型・頁数:B5判・528頁
定価:4,840円(税込)
ISBN:978-4-89632-950-6
シリーズ名:「みえるシリーズ」中の「病気がみえる」シリーズ
電子版:HTML版/PDF版(iOSのみPDF対応)
URL:メディックメディア公式サイト
書籍の概要と特徴
『病気がみえる』シリーズは、医療系学生や臨床職が「複雑な病態をビジュアルで理解する」ことを目的とした人気シリーズです。
本巻「消化器」は、食道・胃・小腸・大腸・肝臓・胆嚢・膵臓といった臓器ごとに、構造と疾患のつながりを徹底的に図解しています。
特に印象的なのは、病態の流れが「絵で理解できる」点。
例えば肝硬変では、門脈圧亢進→食道静脈瘤→出血といった臨床像が、カラーイラストで一目でわかる構成になっています。
また、医師の視点だけでなく、看護師・リハビリ職・臨床検査技師など、多職種で共有できる知識設計がされている点も魅力です。
目次と各章の内容
第1章 消化器の構造と機能
食物が体に入ってから排泄されるまでの経路を俯瞰的に学ぶ章。
リハビリ職にとっては「どの手術でどの臓器が影響を受けるか」を整理するのに最適です。
腹部の断面図や神経支配が丁寧に描かれ、呼吸・姿勢・摂食嚥下に関連する理解にも役立ちます。
第2章 食道・胃の疾患
逆流性食道炎や胃潰瘍など、術後の食欲低下や胸やけなどを引き起こす疾患を解説。
特に早期離床時の体位変換や、腹圧上昇による再発リスクへの配慮など、臨床のリスク管理に直結する内容です。
第3章 小腸・大腸の疾患
腸閉塞や潰瘍性大腸炎など、活動性を制限せざるを得ない疾患を扱っています。
術後イレウスの予防や、排便リズムに合わせた運動スケジュールなど、理学療法・作業療法の工夫が活かせる章です。
第4章 肝臓・胆嚢・膵臓の疾患
肝硬変・胆石・膵炎など、代謝と免疫に関わる疾患群。
リハビリ職にとっては「全身状態をどう評価するか」が焦点となります。
肝機能低下による倦怠感や筋力低下、膵炎による疼痛コントロールの必要性などが具体的に示されており、患者理解が深まります。
第5章 検査と治療
内視鏡・CT・MRIなどの画像検査の基礎に加え、化学療法や手術の概要も整理されています。
術式ごとの解剖変化(胃切除・胆嚢摘出・膵頭十二指腸切除など)を図で確認できるため、術後リハビリの安全性評価に直結します。
読んで得られること
本書を読むことで、消化器疾患に関する「リスク感覚」が大きく変わります。
術後離床を進める際に、ただ“動かす”のではなく、“なぜ今この姿勢が危険なのか”“どの臓器に負担がかかるのか”を具体的に説明できるようになります。
また、画像所見や血液データの基本もカバーされているため、医師や看護師とのチームカンファレンスでも自信を持って発言できるようになります。
どんな人におすすめか
- 急性期病院で術後リハビリに関わる理学療法士・作業療法士
- 消化器疾患をもつ患者さんを担当する回復期・在宅スタッフ
- 学生指導やチーム教育を行う教育担当者
- 医師や看護師との共通言語を持ちたいリハ職
これらの方には特に価値の高い一冊です。
実際に読んだ感想・臨床での活かし方
私がこの本を読んで最も役立ったのは、術後リハビリのリスク管理の捉え方が大きく変わった点です。
これまで消化器外科術後の患者さんを担当する際、
「離床を進めたいけれど、どの程度動かしてよいのか」
「腹部のドレーンや創部への負荷はどのくらい問題なのか」
といった不安を感じることがありました。
『病気がみえる vol.1 消化器』では、術式ごとの解剖変化や臓器の位置関係、消化液や血流の流れまでビジュアルで整理されています。
例えば、
- 胃切除後は吻合部への負担を避けるために腹圧を上げない体位変換が重要であること
- 膵頭十二指腸切除後は膵液瘻や胆汁漏のリスクを念頭に呼吸訓練や端座位を慎重に行う必要があること
など、病態とリハビリを直結して考えられるようになりました。
また、肝機能低下や膵炎の患者では、筋力低下や全身倦怠感を“廃用”と誤認しがちですが、本書を通して背景にある代謝障害や炎症反応の理解が深まり、離床スピードや負荷量設定の根拠を持って判断できるようになりました。
カンファレンスでも、医師や看護師に対して
「この術式では腹圧上昇を避ける必要がある」
「胆汁ドレナージの量が安定してから立位練習を始めたい」
といった医学的根拠を踏まえた提案ができるようになったのは大きな変化です。
単に「動かしていいか」ではなく、「どの臓器がどのように回復していくか」を理解した上でリハビリを進める姿勢が、患者の安全にもつながっていると感じます。
まとめ
『病気がみえる vol.1 消化器』は、単なる医学書ではなく、リハビリ職が「安全に動かすための解剖と病態」を理解するための実用書です。
図で学べるからこそ、チーム全体で共通理解を持てる。
急性期・回復期・在宅、どの現場にも役立つ“消化器疾患の教科書”として、ぜひ手元に置いておきたい一冊です。

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