こんな悩みありませんか?
膝の痛みを訴える患者さん。
ふと、こんな問いを自分自身に投げかけたことはないでしょうか。
「この痛みは変形性膝関節症だから仕方ない」
「画像に変形があるから、この人の痛みはそれが原因に違いない」。
しかし、理学療法士・作業療法士として日々臨床に立つあなたなら、痛みの背景はもっと多様で、「変形=痛み」の単純な図式では説明しきれないと感じたことがあるはずです。
「園部俊晴の臨床『膝関節』」では、まさにその“定型化された思考”から抜け出し、膝関節痛を「どの組織が痛んでいるか」「力学(メカニカルストレス)はどうか」という二軸で考えるための臨床ガイドが提示されています。
理学療法・作業療法の現場で「膝痛=変形」の“即断”に陥ってしまっているなら、本書が提供する「仮説を立てる」「検証する」プロセスこそが、あなたの臨床力を飛躍させる鍵になるでしょう。
本書の位置づけと特徴
まずは本書の概要と、その専門家視点からの価値について整理します。
- 著者は園部俊晴 先生。
約30年にわたる理学療法の臨床経験を持ち、プロスポーツ選手から一般の方まで幅広く膝関節を診る中で得た「生きた知見」が本書に凝縮されています。 - 出版:運動と医学の出版社、2021年1月発行、B5変型・約360頁。
- 本書の最大の特徴
:膝痛を“組織学的推論” × “力学的推論”という二つの視点からアプローチしている点。 - 「膝の痛みを生じやすい組織」を9つに分類し、それぞれの評価・治療・力学的考察を記載。
- さらに、代表的症候群(例えば 変形性膝関節症 や 膝関節過外旋症候群)に対しても、評価・治療・力学系の視点を深掘り。
このように、臨床に立つセラピストが「痛みの原因を明確に仮説立てる」ための構造が整備されており、ただ読むだけでなく「すぐに使える」レベルまで落とし込まれています。
本書で学べること
以下、章ごとに本書の内容を追い、理学療法・作業療法臨床でどのように活かせるかを解説します。
第1章:臨床における仮説検証の重要性
ここでは
「なぜ仮説を立てるか」
「なぜ検証を行うか」
が整理されています。
特に、膝痛で「画像に変形が映っている」「メモリにそう覚えている」から“原因決め”してしまう危険性を指摘。
臨床家として
「この痛み、本当に変形だけか?」
「他に見逃している構造・力学的ストレスはないか?」
と問い続ける姿勢を養えます。
第2章:臨床推論における評価
問診・触診・関節運動・力学的評価という一連の評価プロセスが体系的に記述されています。
特に、「関節運動を利用した評価法」「膝関節の力学的評価」は臨床場面で“動きの観察”に落とし込む際に非常に役立ちます。
例
:膝屈曲・伸展制限のみで終わらせず、荷重‐離重、支持位の膝角度、股関節・足部の影響などを評価する視点を得られます。
第3章:痛みを生じやすい組織の評価と治療の実際
ここが本書の“核”です。
膝痛でよく出会う以下の9つの組織について、評価・治療・力学的考察が展開されています。
- 膝蓋下脂肪体
- 膝蓋腱および膝蓋支帯
- 内側側副靱帯
- 半月板
- 鵞足
- 半膜様筋
- 伏在神経
- 腸脛靱帯
- 膝窩筋
臨床では「変形性膝関節症」と診断された症例でも、実は“膝蓋下脂肪体”や“腸脛靱帯”にストレスがかかって痛みを発していた、ということは少なくありません。
本書はこうした“見落としがちな組織”を丁寧に扱っており、
「この膝の痛み、何の組織?」
を明確化する手助けになります。
第4章:可動域・柔軟性の改善
「動き(可動域・柔軟性)が整っていない=力学的ストレスの温床」という視点が示されており、膝伸展制限/屈曲制限の改善プロセスが現場レベルで紹介されています。
臨床で「膝が伸びない」「膝が曲がりきらない」といった訴えに対し、なぜそれが起こるか(組織・力学)、そしてどう改善するか(手技・運動)は本章から多くを学べます。
第5章:2つの症候群
特に「膝関節過外旋症候群」「変形性膝関節症」にフォーカスし、それぞれにおける病態・評価・治療・力学的視点を深掘りしています。
つまり、典型的な疾患ラベルを単に読むだけで終わるのではなく、「そのラベルの裏にある力学的ストレス」「痛みを発している構造」を探る視点を提供してくれます。
臨床活用の視点:この書籍をどう使うか
では、理学療法士・作業療法士としての“現場”で、どのように本書を活用すればよいか。
以下、具体的視点と活用法を挙げます。
「変形」のせいにしない思考を養う
膝痛の相談を受けると、まず「変形性膝関節症」という診断ラベルが頭に浮かぶことが多いです。
しかし本書が提示するように、「画像で変形があっても、痛み=それだけではない」ことが多々あります。
例えば、荷重時の膝内反・外反のズレ、支持期間中の膝角度、股・足部の運動連鎖の崩れ、腸脛靱帯や膝蓋下脂肪体などの“痛みやすい構造”から来るストレスなど。
臨床場面では、変形を“結果”と捉えたうえで、その人の「なぜ痛いのか」「どの組織・どの力学が関与しているか」を仮説立てることが、治療の深みを与えます。
組織特定→力学検討→治療仮説というフロー
本書第3章の内容を使って、以下のようなフローを臨床で実践できます:
- 患者の膝痛を「どの構造が痛んでいるか(組織学的推論)」仮説立てる。
例:荷重大→膝外反位/支持期に膝内側に痛みあり=「内側側副靱帯」の可能性。 - 次に「その構造に対してどのような力学的ストレスが加わっているか(力学的推論)」を検討。
例:立位バランス不良/片脚荷重時間短縮/股関節内旋過多→膝内側に圧が集中。 - 最後に「その組織・力学ストレスに対してどう介入するか(治療仮説)」を立案。
例:荷重大→片脚保持時間を延ばす運動/膝内側支持ストレス軽減のための外側支持強化/内側側副靱帯を保護しながら筋・靱帯系の調整。
このように、本書は“ただ読む”だけでなく、臨床の仮説立てを量産できる構造を備えています。
動きをみるポイントが明確になる
臨床場面で
「この動き、何をみればいいのか」
「膝が痛む動作=どこを観察すればいいのか」
が曖昧になりがちです。
本書第2章・第3章では、膝関節の運動・荷重応答・支持期間中の動きという観点から、具体的に“動きの観察ポイント”が示されています。
例えば:
- 膝屈曲・伸展制限があるとき、「荷重位での膝角度」「荷重から離重量への移行時の膝ブレ(内反・外反)」「股関節・足関節の連動」などを観察する。
- 膝蓋下脂肪体が痛む場合、「膝深屈曲時や伸展終末域での痛み」「膝蓋下部の圧痛」「動作中の膝蓋骨-下脂肪体のすりつぶし的ストレスの有無」などを検討。
こうした“観察すべきポイント”が明文化されていることで、動作分析に不安があるセラピストにも使いやすくなっています。
仮説が莫大に増える=臨床が深まる
本書を読むことで、膝関節痛に対して「この構造・この力学・この動き」という仮説をたくさん立てられるようになります。
初見の膝痛症例でも、「関節可動域制限」「支持期・遊脚期での膝角度異常」「筋・靱帯・神経構造からの疼痛因子」「足部・股関節との連鎖による膝ストレス」など、多様な切り口を設けられます。
臨床での「何が原因か分からず、とりあえず運動処方している」「変形だからとあきらめてしまっている」状況を改善し、「考える臨床=仮説×検証」というサイクルに乗せる助けになります。
臨床事例との関連:私の現場経験から
(※以下は私自身の理学療法・動作分析経験に基づく“個人的な活用”視点です)
以前、60代女性で「変形性膝関節症」と整形外科で診断され、歩行時に膝関節の内側部に疼痛を訴える方がいました。
画像には明らかに内側の関節裂隙の狭小化・骨棘あり。
いままでなら「変形だから痛い」「荷重軽減・体重管理」といった流れで進めがちでした。
しかし本書の仮説立て手順に従うことで、
- 組織学的推論:膝蓋下脂肪体と推察。
- 力学視点
:荷重位で膝関節外反(knee-in test)にて再現あり、膝関節内旋モーメントの増大にて膝蓋下脂肪体へ力学的ストレスが生じたと推察。 - 治療
:膝蓋下脂肪体の徒手的滑走
:膝関節内旋モーメントが増大しないような可動域訓練や運動指導
というように整理することができるようになりました。
結果としてこの症例は、変形性膝関節症の診断があっても、疼痛が消失した生活を送ることができました。
まとめ:理学療法・作業療法セラピストへのメッセージ
「園部俊晴の臨床『膝関節』」は、膝痛を扱う臨床家にとって “仮説を立てる力” を磨くための最高の“教科書”です。
特に以下に当てはまる方に強くおすすめします。
- 膝痛患者に対して「変形だから」「もう歳だから」とあきらめてしまいがちなセラピスト
- 膝の痛みでいつも同じパターン(筋力低下・可動域制限)で介入してしまい、新しい視点が欲しい方
- 動き・荷重・支持期という力学的ストレスをもっと臨床に反映させたい方
- “どの組織が痛んでいるか?”を明確にしてから介入を組み立てたい方
ただし、ひとつ留意点があります。
本書は 「読むだけで魔法のようにすべてが解決する」 という類の書籍ではありません。
むしろ「読み」「考え」「仮説を立て」「検証し」「治療を組み立てる」という、臨床家自身の“思考力・技術力”を問う内容です。
誇張ではなく、臨床に正面から向き合うセラピストにこそ相応しい一冊です。
膝痛症例を前に、「またこのパターンか…」と感じることがあるなら、ぜひこの本を手にとってみてください。
あなたの仮説の数が増え、臨床の幅が広がることを、私は確信します。

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