この本を手に取った理由
臨床で筋骨格系の患者さんを担当していると、
「なぜこの動きで痛みが出るのか?」
「なぜこの触診位置で反応が違うのか?」
と、解剖学的な“なぜ”に直面することが多いと思います。学
生時代に学んだ解剖学は、骨や筋の名称を暗記するだけで終わってしまいがちですが、実際のリハビリ現場では“動きの中での構造理解”が求められます。
そんな時に出会ったのが、工藤慎太郎先生による『運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 第2版』です。
徒手療法を臨床で使いこなしたい方、または解剖学を「使える知識」として再構築したい方にとって、まさに実践解剖学の決定版といえる一冊です。
書籍の基本情報
- 書名:運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 第2版 徒手療法がわかるWeb動画付
- 編集:工藤 慎太郎
- 出版社:医学書院
- 発行年月:2024年3月
- 定価:5,280円(税込)
- ISBN:978-4-260-05438-6
- 判型・頁数:B5判・248頁
- 電子版ISBN:978-4-260-65438-8(発売日:2024年3月25日)
- 特徴付録:徒手療法のWeb動画付
書籍の概要と特徴
本書は、運動器疾患の臨床において
「なぜこの部位で症状が出るのか」
「なぜこのアプローチが有効なのか」
を解剖学的根拠から解き明かす構成になっています。
第1版の発売から数年、多くの臨床家に支持されてきましたが、第2版では図解・構成がさらにアップデートされ、筋・関節・神経のつながりを“動きの流れ”として理解できるように改訂されています。
特に、骨格と筋の関係を動態的に捉えられるイラストが秀逸で、静的な構造から動的な臨床推論へと橋渡ししてくれるのが大きな魅力です。
また、Web動画では、著者自らが徒手療法の評価・治療をデモンストレーションしており、書籍と動画を往復することで理解が深まる構成になっています。
目次と各章の内容
本書は、身体各部位を臨床動作と結びつけながら解剖学的に再解釈していく章立てになっています。以下に章ごとのポイントを紹介します。
第1章:臨床解剖学の考え方
ここでは、「構造から機能を読み解く」視点が解説されています。
著者は“静止している筋を見ても、動きの問題はわからない”と述べ、筋や関節を動作の中で理解することの重要性を強調しています。
リハビリ現場で患者の「動き」を評価する意義を、理論的に再確認できる章です。
第2章:脊柱・体幹の臨床解剖
脊柱の可動性や安定性に関わる筋群、椎間関節や椎間板のメカニズムを豊富な図で説明。
特に多裂筋の機能的役割や、胸腰筋膜の張力伝達が丁寧に整理されており、腰痛アプローチの臨床推論に直結します。
第3章:肩関節複合体の解剖と運動
肩関節の安定性に関わる関節包や腱板筋の協調運動を、動作分析の視点から解説。
動画では、肩甲骨のモビライゼーションと筋膜リリースの具体例も示されており、臨床での再現が容易です。
第4章:肘・前腕・手の構造と臨床的視点
作業療法士にとって重要な上肢機能に焦点を当て、橈尺関節や手根骨の配列がどのように巧緻動作へ影響するかを掘り下げます。
腱滑走や末梢神経走行の図解も充実しており、手部疾患の徒手介入に役立つ内容です。
第5章:股関節・骨盤帯の臨床解剖
骨盤の安定性と下肢連鎖をテーマに、殿筋群や骨盤底筋の働きを解説。
特に仙腸関節の機能的可動性に関する説明は、近年のエビデンスを踏まえた最新の内容になっています。
第6章:膝関節と下腿の構造的理解
膝蓋骨の動きと大腿四頭筋の連動、内外側の安定機構など、臨床で見落としがちな力学的関係を明確に示しています。
整形外科疾患(ACL損傷、PFPSなど)の治療戦略を考えるうえでも非常に参考になります。
第7章:足部・足関節の解剖学的連鎖
足部を“地面との情報受容器”として捉える新しい視点を提示。
距骨下関節の動きや足底筋膜の張力伝達についての解説は、歩行分析・動作再教育に直結する知見です。
各章には「臨床へのヒント」欄が設けられ、構造理解をどのように治療計画に結びつけるかが具体的に示されています。
読んで得られること
本書を通じて得られる最大のメリットは、“静的な解剖学”から“動的な臨床解剖学”への転換です。
骨・筋・関節を単独で見るのではなく、動作全体の中で関係性を理解することで、痛みや可動域制限の「原因の因果」を説明できるようになります。
さらに、Web動画を活用することで、触診やモビライゼーションの手技イメージが明確になります。
これにより、書籍で学んだ理論をすぐに臨床で試せるのが本書の強みです。
どんな人におすすめか
- 解剖学の知識を実践レベルで使いたい理学療法士・作業療法士
- 徒手療法を学び始めた新人スタッフや学生
- 痛みのメカニズムを構造的に説明したい臨床家
- 動作分析やボディメカニクスに興味がある方
特に、評価の根拠を明確に示したい方や、指導・教育に携わるセラピストにも非常に有用です。
臨床推論を言語化する際の参考資料としても最適です。
実際に読んだ感想・臨床での活かし方
私はは、臨床2年目の頃に本書を活用しました。
慢性腰痛患者の体幹筋機能を再評価する際、脊柱起立筋の緊張ばかりを見ていた自分に気づき、胸腰筋膜と多裂筋の連動に注目したことで治療の方向性が一変。
運動連鎖を踏まえた介入で疼痛軽減と再発予防が実現しました。
この経験から、「動きを解剖学的に捉える視点」が臨床を変えることを実感。
工藤先生の解説には、実際の触診位置やモーションパルペーションのコツも散りばめられており、現場での即戦力になります。
まとめ
『運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 第2版』は、単なる解剖書ではなく、“臨床の思考を育てる教科書”です。
構造と機能のつながりを理解することで、評価も治療も「根拠ある選択」ができるようになります。
徒手療法を体系的に学びたい方、動作分析の精度を高めたい方には間違いなくおすすめの一冊です。
理学療法・作業療法の現場で日々の「なぜ?」に答えを見つけたい方に、ぜひ手に取ってほしいと思います。


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